
難聴と認知症との関係が注目されています。
「難聴を抱える高齢者は、聴力を維持している者よりも、徐々に認知症を発症する確率が大幅に高くなっています。私たちの所見は、医師が聞こえについて患者と話し合い、徐々に低下する聴力に積極的に対処することがいかに重要であるかを強調しています。」(※1)
※1 Johns Hopkins Medicine. Hearing Loss Accelerates Brain Function Decline in Older Adults.2013 (http://www.hopkinsmedicine.org/news/media/releases/hearing_loss_accelerates_brain_function_decline_in_older_adults)
放置されている難聴と認知症およびアルツハイマー病との関係。
難聴が認知症やアルツハイマーの発症と関係があることを示唆する複数の研究があります。難聴をそのまま放置しておくと、深刻なリスクとなる恐れがありますが、このことは、聴覚が低下している人たちに十分周知されているわけではありません。
この情報を提供することで、患者やその大切な人の聞こえのケアについて意識を変えさせるきっかけとなることでしょう。
フランク・R・リン医学博士は、医学の専門家が難聴と認知力の低下という話題について、よく引き合いに出す研究を実施しました。この研究では、平均年齢77.4歳の成人1,984人を6年間観察し、認知機能と関連して難聴の進行を追跡しました。
リン博士は、難聴と認知力の低下の関係や理由を特定するにはさらなる研究が必要であるとしつつも、難聴が高齢者の精神的鋭敏さを妨害する一つの要因であると結論付けています。また、この研究では、難聴の程度が重くなればなるほど、認知障害の発症率も高くなり、精神機能の低下もより急激となると示唆されています。ただし、軽度の難聴であっても、認知障害を発症する確率は高くなっています。
「聴力の低下により、灰白質の萎縮が進み、会話を理解するために聞き取りにかなり集中をしなければならないという事実があり、脳に余分な負担をかけることになります。補聴器は聞こえを改善するだけでなく、脳を守ってくれる可能性があります。」(※2)
※2 University of Pennsylvania – Perelman School of Medicine, Jonathan Peele, PhD. 2011 (www.sciencedaily.com/releases/2011/08/110831115946.htm)
2014 年1月、リン博士と彼のチームは、聴力が正常な成人の脳と難聴の成人の脳における変化について新たな結果を公表しました。
10年間にわたり、毎年、MRI(核磁気共鳴画像診断)検査を実施したところ、正常聴力の被験者75人と比較した場合、少なくとも25dBの軽度の難聴を抱える被験者126 人のうち51 人に当初から灰白質の萎縮が進んでいることが認められました。聴覚障害のある被験者は、毎年、脳が1立方センチメートル失われており、音や会話を処理するエリアの組織が大きく萎縮していきました。萎縮は、大脳の中側頭回と下側頭回に影響していました。これらの領域は、記憶や感覚間統合に主要な役割を果たす部分です。これらの領域の同様の損傷がアルツハイマーの患者にも確認されています。
「難聴が放置されたままになると、常習的欠勤、職場での生産性の低下(その結果として、賃金をカットされる)などのほか、抑うつ、不安、認知力の低下につながります。」(※3)
※3 Better Hearing Institute. The Impact of Untreated Hearing Loss on Household Income. Sergei Kochkin, Ph.D. 2005 (http://www.hearing.org/uploadedFiles/Content/impact_of_untreated_hearing_loss_on_income.pdf)
難聴の早期診断と治療は、認知症やアルツハイマーの進行を遅らせます。
難聴が認知症やアルツハイマーの進行の要因であるというエビデンスが増えていることから、難聴を放置することによる深刻な影響について、医師は患者に適確な情報を伝える義務があります。難聴は早期に発見し早く治療や聴覚補償を開始するほど、聞き取りが維持されやすいという事実があるにもかかわらず、難聴を抱える人々が診断されてから治療を求めるまでには平均で7年かかっています。早期診断と医療的介入により、認知症やアルツハイマーの進行を遅らせることができることを考えると、医師が患者に対し、できるだけ早く難聴の治療や聴覚補償の方針を促すことがさらに重要となってきます。
補聴器による聴覚補償は、患者の聞こえを改善するだけでなく、脳の萎縮や認知機能障害の予防につながる可能性があります。
「(米国における認知症やアルツハイマー患者の)ヘルスケア、長期ケアおよびホスピスの費用は、総計で毎年1,830億ドルとなっており、これは2050年までに毎年1兆1,000億ドルに達すると予測されています。」(※4)
※4 Alzheimer’s Association. 2011 Alzheimer’s Disease Facts and Figures
(http://www.alz.org/downloads/Facts_Figures_2011.pdf)
最初の研究が公表されたとき、リン博士とそのほかの専門家は、なぜ難聴が認知症やアルツハイマーにつながるのかという点について、次のような、いくつかの理論を出しています。
· 難聴を抱える人が、聞いて理解しようとすることが大きな負担となり、認知を阻害する日常的な要因となっている
· 聴力の低下した人は、社会的に引きこもりがちになり、通常の交流が不足するため、精神的に低迷してしまう
· これらすべての要因が組み合わされて認知力低下の要因となっている
シーメンスホームページから引用
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